
青い桜は何を願う
第2章 出逢いは突然のハプニング
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さくらは部室のある別棟に着くと、重たい鉄の扉を開けた。
「ネタは上がってんだよ。おとなしく来やがれこのヤロー!」
たった今まで固く閉ざされていた校舎から、ひんやりした風が吹き寄せてきたのとほぼ同時、さくらの心臓が凍てついた。
普通に生活している限り、ドラマや映画でしか聞けなかろうだみ声に、きぃんと耳を打たれたからだ。
怒声は、おそらく、階上から響き渡ってきたものだ。
さくらは、階段を昇るには些か重たいクラシカルロリィタのワンピースのスカートを揺らしながら、階段を昇ってゆく。
「俺様にここまで足を運ばせやがって……ったくぅ、無視ってかぁ?ぇえこらぁぁあ?!良いご身分でござんすなぁ。おらおら」
「…………」
さくらは二階まで昇ったところで、とうとう動けなくなった。
足が竦んで声も出ないのか、古典的な物言いに呆れて声も出ないのか、自分で自分が分からない。
ギャグやコントではなかろう。おそらく、物騒な事態が起きているのだ。
さくらは身を翻す。
頭の片隅で、サイレンが鳴っていた。かくなる上は、警備員を呼んできて、被害を未然に防ぐのだ。
その時だ。
「うっせぇんだよさっきから!」
命短し春に咲く小花を彷彿するソプラノが、さわっと耳に触れてきた。
「…──?!」
さくらは手すりに手をかけたまま、今度こそ頭の天辺まで固まった。
今のは聞き違いなのか。あるいは、この状況が実は夢だったりするのか。
さくらは、可憐なソプラノにあまりに不似合いな罵倒の文句に、混乱に陥りかけていた。
「んだと?!やんのかこのアマ!さっさと来いっつってるだけだろこらぁ!兄貴待たせんじゃねーよカスっ」
「来いって言われて素直に行く馬鹿がいると思うの?貴方は騙されているんだよ、あのインチキ偽善者やナマコオヤジに。第一、私は無関係」
「すっとぼけんじゃねぇえ!兄貴や旦那を侮辱しやがんじゃねぇえ!殴んぞこら!」
「そっか、ご愁傷様」
「……っ、離せこのっ。貴様、死に急ぐやつだなこらぁあ!俺様をなめんじゃねーぜ。落とし前つけたろかこらぁああ!」
二人の怒気が、ヒートアップしてゆく。事態は悪化に向かっているのだ。
