
青い桜は何を願う
第9章 かなしみの姫と騎士と
「貴方は、私の──氷華の王女の恋人をご存じなの?」
「それはもうじき分かります」
「え、……」
さくらは、にわかにぞっとするものを感じた。
「まさか彼に──」
「彼?はは、本当に何もご存じないんですねぇ。お姫様は」
「…………」
「何も手なんか出してませんよ。それはあの子をダシに貴女をおびき寄せようと目論む連中もいるようですが、俺は第二創世会の飼い犬とは違います」
「どういう意味?」
「俺は銀月善満様のお屋敷で働かせていただいている執事、とでもお答えしておきましょう。貴女の大切なお人とは、お友達のようなものです」
何かが引っかかっていた。
今日初めて会ったはずのこの青年は、本当にさくらの知らない人間か。
違う。さくらは彼を知っていた。西麹の校門で、何度か見ていた。よく手入れされた彼の愛車は、少しくらい裕福なだけの一般人なら手の届かないような代物だ。平素は車に関心のないさくらから見ても、あれは目立つ。
登校時、あるいは下校時によく見る外車の運転手は、いつも皺一つないスーツに身を包んでいた。西麹の生徒の送迎に来ている家族か関係者だろうあの運転手は、今さくらの目の前にいる、残忍な目をした青年ではなかったか。
この青年に頭を下げられていた上級生、あれは、銀月流衣だった。
さくらの霞がかった記憶が、徐々に、輪郭を顕してゆく。
このはがいつも一緒にいた。さくらは、政治家で実業家の父親を持つ学園一の人気を博する上級生と登下校を共にしていたこのはの姿を、何度か見たことがある。このはも流衣も、運転手の青年と、楽しそうに話をしていた。
さすればカイルは、やはり、このはか?
このはなら、この青年が友達と呼んでも不思議ではない。
