
青い桜は何を願う
第9章 かなしみの姫と騎士と
「心配はいりません」
「何が心配ないと言うの?」
「お気に召されませんか?」
「当然よ。ご存じの通り、リーシェの大切な人は、貴方のご主人の先祖に殺されたも同然だわ。貴方達を信じる方が無理な話なの。銀月先輩にそんなつもりはないでしょう。けれど、貴方達なら銀月先輩の気持ちを使ってこのは先輩を陥れるくらい、平気でなさるのではなくて?」
「何か勘違いなさってませんか?」
「──……」
「俺は弦祇様に指一本触れられませんし、あの方をお守りするためなら旦那様にとて背きます。現に貴女をお連れしたのは、弦祇様をこのくだらぬ争いから遠ざけるため。旦那様に知れれば俺の命に保証はない」
「どういう意味?」
「第一、王女様のお大切な騎士は天祈の手にかかったわけではありません。貴女が一番お分かりのはずだ」
「っ、──…」
「いにしえ、氷華一の騎士を殺したのは、貴女だから」
「なっ……」
「もっとも俺は、貴女の彼女への気持ちを疑ってはおりません。あれは事故も同然。氷華の王女様がご覧になった未来では、神にも変えることは不可能ですから」
「いや……やめ、……」
──思い出させないで!
さくらは青年から後ずさる。
封印していた記憶の一片が、紐解かれていく。
自分でも触れてはならなかった胸底に、土足で踏み込んでこようとする青年が、空恐ろしい。
そうだ。さくらが、否、リーシェがカイルを…………。
喉元にひやりとしたものが触れてきた。
さくらがはっとしたのに少し遅れて、後方から真淵に腕の自由を封じられた。少しでも動けば凶器の先端に皮膚を裂かれる。
男にしては肉づきの薄い真淵の腕は、見た目に比べて力があった。全身に注がれてくる殺気は、さくらから言葉を失わせるだけの威力があった。下手に動けば、きっと真淵の逆鱗に触れる。
「麻羽まりあを呼び出せ」
真淵の要求を、さくらは瞬時に解せなかった。
「え?」
「麻羽まりあを呼び出しゃあ命は助けてやるっつってんだよ!てめぇならあのアマも疑わねーでのこのこ来やがるだろ?ああ?!」
「ど、どういう──」
「早君、勝手なことは」
もしや真淵も青年と同じく、第二創世会や銀月善満とは関係なく動いているのか?
さすればさくらは納得がいく。だから自分は、銀月義満や第二創世会に、身柄を引き渡されなかったのだ。
