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青い桜は何を願う

第9章 かなしみの姫と騎士と


「待ちやがれ!」

「早ちゃんの仇っ」

「さくらちゃん!」

 さくらが駆け出すや、このはも少年達の群れに飛び出してきた。

「このはっ……。行夜、これは義父様の命令か?!…──電話に出るのが遅いと思えば、別荘に来ているなんて言うからまともな予感はしなかったが」

「俺の意思でやりました。流衣ちゃんだって、美咲さんのことは良くお思いではないでしょう?」

「だからって聖花隊まで呼ぶな」

「いや、早君には偶然鉢合わせてしまいまして……つけられまして……」

「言いわけは聞きたくない」

「ひゃっ……」

 少年達の怒濤の波を切り抜けて、あと少しでこのはと手が触れ合うところで、さくらは少年の一人の足につまずいた。
 豪快に転んでフローリングに膝を打つ。じわりと痛みが滲み上がるも我慢して、起き上がらんと気負ったやにわ、さくらの背に、少年の一人が飛びかかってきた。汗の混じった不快な匂いが鼻を掠めた。

「ど、どいて下さいまし」

「さくらちゃんから離れなさいっ」

 このはの腕が、さくらから少年を引き剥がす。
 すっと背が楽になった。

「平気?」

「すみません」

 さくらはこのはが差し出してくれた手をとる。躊躇わなかった。

「久し振りだなぁ、さくらちゃんの手」

 また自惚れてしまうではないか。

 さくらはいわゆる恋人繋ぎの必要性に疑問を覚えながら、このはと片手を組み繋いだだけで、さっきまでの不安も恐怖もなくなっていた。まだ安心出来ないというのに。

「逃すかぁああっ」

 今し方さくらから引き矧がされた少年が、脚にしがみついてきた。このはが与えた手刀の打撃が、彼の神経を逆撫でする。

 さくらのこめかみに、突風が立つ。
 振り向くと、別の少年が木刀の先を天井に掲げて、さくらをねめつけていた。

「さくらちゃん!」

 このはに肩を抱え込まれて、さくらは床にしゃがみ込む。すぐ真上を空振りした木剣が空気を裂いた。

 今の内に、と、さくらは立ち上がるべく力を入れた。が、少年の一人のつま先に、ワンピースの裾を踏まれていた。

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