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青い桜は何を願う

第9章 かなしみの姫と騎士と


「このは先輩……」

 一人をかわしてもまた一人来る。立ち上がれない。
 十人がかりの攻撃をたった二人で切り抜けるなど無謀なのか。もとより武器を携えた少年達とは違って、さくらもこのはも丸腰だ。

「はぅっ」

 このはのか細い悲鳴が聞こえた。

「降参して聖女を渡せ」

「人違いだよっ。さくらちゃんは聖女じゃない。天使だよっ」

「ざけんな、てめぇここまでこの娘に執着するたぁ何モンだ?!」

「あんたに関係ない!痛っ……」

「このは!」

「いけません、流衣ちゃん!」

「放せ行夜っ」

 錯雑とした小競り合いの向こうで、流衣が行夜と揉めていた。

 さくらはこのはにしがみつき、軽い恐慌状態にいた。
 身体が動かない。それでも少年達にとり囲まれながら受ける打撃が少ないのは、多分、このはの片腕に抱き込まれているからだ。このはは、利き腕だけで応戦していた。

 カイルと一緒にいた頃の、在りし日が思い起こされてくる。

 ただしこのははさくらを庇ってくれているために、自由に使えるのは片腕だけだ。きっと限界がある。

「くそ、こしゃくな小娘がっ。俺らに刃向かおうなんざ、十年早ぇぜ」

「うるさいっ…──十年なんて、私はもっと……」

 さくらの胸が、このはの呟くほどの声に痛む。

 どこで得たのか、このはの体術の力量は、少年達と大差ない。あるいはそれ以上だった。さくらを気遣ってくれてさえいなければ、このはは彼らをさっさと打ち負かしていたろう。
 だが、現実に今、このはは疲弊している。息も絶え絶えだ。さくらをくるんでくれていた腕から力が抜けて、いつの間にか、さくらがこのはを支えていた。

「このは先輩、放して下さい」

 このはには、利き腕で少年の一人のバッドを掴んで、それごと彼を押し飛ばせるだけの力が、まだ残っている。このは一人なら、今からでも逃げられる。

「ダメだよっ。さくらちゃんは、私達の──」

「その方達の狙いは私ですわ。先輩を巻き添えにしたくありません」

「さくらちゃん……。うっ」

「このは先輩!」

 背後から少年に蹴られたこのはが、さくらに倒れ込んできた。
 さくらもこのはと腕を絡め合ったまま、床に叩きつけられる。

 瞳を開けると、さくらはこのはと目が合った。
 このはの痛々しげな微笑みが、さくらを悪夢から目隠しする。

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