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青い桜は何を願う

第9章 かなしみの姫と騎士と


「どういうことですか?」

「このはが、美咲と襲われてるんだ。兄と──…じゃなくて、執事も。私は閉め出されて、中から鍵がかかっている。開けられるのは、多分、……」

 莢は流衣に催促されて、そこいらの人家のひと回り広い敷地はあろう別荘の裏手に回る。地階に続く階段があった。薄暗く、奥へ行くほど暗澹としている。一週間前訪った、あの地下帝国を思い出す。

 流衣が階段を降りていく。莢も、木製の平屋を一度振り返った後、やはり彼女に従っていく。

「この先は蔵。天祈の王家が所有していた財宝や、がらくたが保存されている。昔のあの戦の後、略奪してきた氷華の所有物も」

「その蔵と、鍵と、何か関係が?」

 段差が終わった。

 莢の暗闇に馴れた目が、扉と、そして振り返ってきた流衣を捉えた。

「クラウス家秘伝の剣術は、希宮さんに備わっている?」

「──……」

 分からない。ただ、ここで試みるだけ試みてみる意を示さねば、流衣はさくらの元に案内してくれまい。

 莢のさくらに対する渇望が、胸奥をむず痒くしていた曖昧を、確信に変えた。

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