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青い桜は何を願う

第9章 かなしみの姫と騎士と


* * * * * * *

「まさか貴様かぁ?早ちゃんを辱めたやつァ」

「だったら何」

「そこをどけ。「花の聖女」をオレらに渡しゃあ特別に許してやんぜ。お望みとありゃあ、貴様の可愛い想い人が俺らの役に立つとこまで見せてやろーか?」

「悪趣味野郎。殺して欲しい?」

「っ、てめぇ自分の状況分かってほざいてんのか?!」

「や、やめ──っ」

 少年の一人がこのはの襟ぐりを掴み上げた。
 さくらから乱暴に引き離されたこのはの身体が、床に叩きつけられる。

「うっせぇぜっ」

 このはの手を、別の少年が踏みつけた。

「貴様が消えりゃあ聖女一人にここまで手こずらねぇんだ」

「さくらちゃんに触らないで!」

「ああ?それが他人にモノを頼む態度かァ?」

「……っ」

「このは先輩!」

 喉首を蹴り上げられて咳こむこのはに、少年が木剣を振りかざす。

 さくらはこのはと少年の元へ這っていく。
 視界に黒い影が落ちてきた。

「返り血を浴びたくなけりゃあ、お姫様はじっとしてな?」

 筋肉質な少年に行く手を阻まれて、さくらは身動きとれなくなった。

 痛い思いはしたくない。「花の聖女」として生け捕りになるなど以ての外だ。少年達の思惑通りになってたまるか。何よりこのはを守りたい。

 もう、あんな光景を見たくない!

「このは先輩!」

 さくらは筋肉質な少年をかわして、このはと木剣を握った少年の間に割り込む。

「さくらちゃん!」

 視界の端で、無情な凶器が振り下ろされる。

 ああ、さいごに、このはに触れたい。

 少しだけ体温の低い、このはの柔らかな手を求めて、さくらは指先をそっと伸ばした。

 さくらの身体がこのはに抱き寄せられたその瞬間、辺りの空気が、変わった。

「……え……」

 木剣の餌食にもならないで、頭を割られることもなく、ただ甘辛い匂いにさくらの臭覚が囚われた。

 否、囚われたのは臭覚ではない。

 さくら自身が、桜花とも氷桜ともつかない花吹雪の中にさらわれたのだ。このはと共に。

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