
青い桜は何を願う
第9章 かなしみの姫と騎士と
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「まさか貴様かぁ?早ちゃんを辱めたやつァ」
「だったら何」
「そこをどけ。「花の聖女」をオレらに渡しゃあ特別に許してやんぜ。お望みとありゃあ、貴様の可愛い想い人が俺らの役に立つとこまで見せてやろーか?」
「悪趣味野郎。殺して欲しい?」
「っ、てめぇ自分の状況分かってほざいてんのか?!」
「や、やめ──っ」
少年の一人がこのはの襟ぐりを掴み上げた。
さくらから乱暴に引き離されたこのはの身体が、床に叩きつけられる。
「うっせぇぜっ」
このはの手を、別の少年が踏みつけた。
「貴様が消えりゃあ聖女一人にここまで手こずらねぇんだ」
「さくらちゃんに触らないで!」
「ああ?それが他人にモノを頼む態度かァ?」
「……っ」
「このは先輩!」
喉首を蹴り上げられて咳こむこのはに、少年が木剣を振りかざす。
さくらはこのはと少年の元へ這っていく。
視界に黒い影が落ちてきた。
「返り血を浴びたくなけりゃあ、お姫様はじっとしてな?」
筋肉質な少年に行く手を阻まれて、さくらは身動きとれなくなった。
痛い思いはしたくない。「花の聖女」として生け捕りになるなど以ての外だ。少年達の思惑通りになってたまるか。何よりこのはを守りたい。
もう、あんな光景を見たくない!
「このは先輩!」
さくらは筋肉質な少年をかわして、このはと木剣を握った少年の間に割り込む。
「さくらちゃん!」
視界の端で、無情な凶器が振り下ろされる。
ああ、さいごに、このはに触れたい。
少しだけ体温の低い、このはの柔らかな手を求めて、さくらは指先をそっと伸ばした。
さくらの身体がこのはに抱き寄せられたその瞬間、辺りの空気が、変わった。
「……え……」
木剣の餌食にもならないで、頭を割られることもなく、ただ甘辛い匂いにさくらの臭覚が囚われた。
否、囚われたのは臭覚ではない。
さくら自身が、桜花とも氷桜ともつかない花吹雪の中にさらわれたのだ。このはと共に。
