
青い桜は何を願う
第2章 出逢いは突然のハプニング
何かと何かがぶつかり合う音がして、何かが割れる音も聞こえた。
さくらの気の所為か、校舎も揺れているのではないか。
これは、もしかしなくても危険だ。
…──弦祇先輩!
警備員を呼びに行っていては間に合わない。
さくらは、いつもは億劫な長い階段を、無我夢中で駆け昇る。
手芸部の部室のフロアを通りすぎて、更に上階へ、上階へと昇っていっても、なかなかゴールが見えい。それでも、少しの息苦しさを差し引けば、平素より疲弊しなかった。
五階に出ると、案の定、さくらのよく知る上級生が、踊り場近くで小さく息を切らせていた。
「弦祇先輩っ」
このはは、見たところ無事でいたらしい。心なしか怯えた瞳がたゆたっていたが、怪我も、ないようだ。
さくらはとにかく胸を撫で下ろす。
「貴女はっ」
さくらは、このはが振り向いてきたなり目が合った。そうして驚きに瞠った黒曜石の瞳の色を見た途端、自分がいかにもこのはの不審を招いたかを自覚した。
そうだ。さくらは、このはにしてみれば顔も知らない下級生だ。名前を知っているはずもなければ、「弦祇先輩っ」などと叫んではおかしい。
「あ、あの、怖そうな男の人の声が聞こえてきて、事件かと思いましたの。ですから警備員の方達をお呼びしようとしたんです。でも、弦祇先輩の声が聞こえて──…私っ……」
ずっと憧れていたこのはとの初めてのやりとりが、こんな気まずいものになろうとは。
さくらは、悲しくなった。
が、今は弁解するのが先だ。誤魔化さないで、正直に、ただでさえ怖い思いをしていたろうこのはを安心させたい。
「先輩のこと、知っております。……舞台、見てましたから……」
「えっ……」
「警備室へ行っていては、その間にも、先輩に何かあってはと思うと、私、ダメだったんです!お節介だとか、野次馬根性だとか、考える余裕もなくなって……」
さくらは必死だ。
このはに警戒されたり、怪しい下級生として記憶されては、耐えられない。
「……貴女。もしかして、もしかして……」
さくらは、そこではたと気が付く。
そう言えば、さっきから、このはに何か言いたげな素振りを向けられている?
「貴女は、美咲さくらさん?」
可憐な声に、名前を呼ばれた。
