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青い桜は何を願う

第9章 かなしみの姫と騎士と


 そして、誰だ?

「…………」

 カイルの他に、もう一人、とても美しい側近がいた。強く気高い、プリンセスにも優る貴い人が、…………夢か?

 花吹雪が止んだ。

 さくらの視界が、出入り口の扉の側に、一人の少女の姿を捕らえた。

 気の所為か見覚えのある長剣を鞘に仕舞った少女が、どきりとするほど不思議な黒曜石の瞳を浮かべた目を細めた。

 さくらは少女の微笑という名の凶器に、一瞬にして捕まった。







 さくらはこのはの腕の中で、固まっていた。突然表れた美少女に、見事に度肝を抜かれたのである。

 少女のすらりと伸びた手足は、スタイルが良いというレベルではない。腰まで伸びた亜麻色の髪は、ストレートパーマをあててもここまでにはならなかろう質感があり、ついでに天使の輪も見える。切れ長の目に似合う凛々しく優しげな双眸は、少女の中性的な顔立ちをどこまでも純粋に引き立てる。仄かな頬の血色は流石に化粧によるものだろうが、その肌は瑞々しくて、形の良い唇は、少し言い寄られでもすればキスでも何でも許したくなる危うさだ。ビビットなゴシックパンクスタイルが、瀟洒な少女の雰囲気を、いっそうあか抜けさせている。

 さくらは、とんでもなく強烈なオーラをまとった少女に、視線を縫いとめられていた。

「私の顔に何かついている?そこの綺麗なお嬢さん」

 囁くような、それでいて凛とした、少女めいても大人びても聞こえる声は、すっとさくらの意識に馴染んだ。初めて聞いた感じがしない。

「滅相もありませんわ」

 さくらは、ようやっとの思いで反駁した。
 あれだけ見つめて不審を招かない方がおかしいだろうに、少女にさくらを咎めようという気配はない。さくらの自惚れでなければ、親しげでさえあった。

 綺麗な瞳に、肌に、髪…………少女を構成するもの全てに、さくらは心を奪われた。

 さくらは、少女のきょとんとした目に見守られていた。

「遅すぎませんか?!希宮さん」

 久しくスーツ姿の青年が、しゃしゃり出てきた。

 少女から面倒臭そうな息が立つ。切れ長の目許をあえかに飾る、どれだけ丹念に研磨しても顕れなかろう眩耀を湛えた黒曜石が、行夜を汚らわしげに一瞥した。

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