
青い桜は何を願う
第9章 かなしみの姫と騎士と
「さくらちゃんに話がある。……良いよね?このは」
「ダメ」
「さくらちゃん。……」
「──……」
あんな騒ぎのあった後だ。さくらはこのはの側にいたい。離れたくない。
それとは裏腹、さくらは、並外れて魅惑的な少女の正体を知りたい。この少女に付いて行けば、あらゆる謎が解ける気がした。
「このは先輩、銀月先輩は──」
「さくらちゃんがいてくれれば良い」
「…………」
「うそうそ。ごめん、さくらちゃんは莢と話してきて」
「あの、……」
「一人で帰れるよぉ。さくらちゃんが今度一日デートしてくれるならね」
「えっ?!」
「ふふ、行ってらっしゃい。流衣先輩は有川さんに閉め出されちゃったんだと思うんだ。そこでまーるくなって震えてる執事さんは過保護だからねぇ。多分、もうすぐ戻ってくるよ」
「でも……」
本当にこのはを残して大丈夫なのか。
さくらは後ろ髪を引かれる思いで立ち上がり、少女を見つめた。
「さくらちゃん」
少し低めの、涼しげな声だ。
やはりどこかで聞いたことがある。
何もかも見透かされそうに綺麗な瞳だ。
本当に、少女の美貌は奇跡だ。気まぐれな神が遣わせた、人ならざる者の命がこの少女には宿っている。そんな感じだ。
否、違う。見目が美しいとかそういう単純なものではない。
魂に、一点の曇りもないのだ。
「初めまして。希宮莢です。妖精さんとは古い知り合い」
さくらは、まるで磁石が磁石に引きつけられるように、莢の差し出してくれた手をとった。
瞬間、さくらの脳裏を、今朝電車でうたた寝していた時に見えたビジョンが過ぎった。
