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青い桜は何を願う

第2章 出逢いは突然のハプニング


「え……っ、……」

「あのっ。有り難う、ね。ごめん、驚かせてしまったのなら本当、ごめんなさい。私、貴女のファンなんだ。二年半前の文化祭、手芸部のファッションショーで美咲さんを見てから、ずっと貴女を目で追ってたの」

「……──!!」

「昨年は展示会だったね。その時も貴女の作品の前に三十分近くも居座っちゃった。『夢の中の結婚式』、どうしてだろう、キラキラしていたのに、見てると切ない気持ちになった。あんなに綺麗なウェディングドレスを作れるなんて、美咲さんって、すごく純粋で可愛らしい心を持っているんだなぁって」

 このはがしみじみ語った後、微笑んだ。

「あ……あの……」

 こんなに間近でこのはと向き合ったのは初めてだ。

 さくらがこのはの存在を知ったのは、中学一年生の秋、文化祭でのことだ。

 さくらは手芸部の仕事の合間を縫って、学園内を散策していた。気紛れに演劇部のステージ発表を覗いてみた時、舞台に立つこのはを見かけた。

 あの瞬間(とき)から、さくらの学校生活が色づいた。

 あれからずっと、演劇部のステージは、全て、欠かさず観ている。

 今、さくらは、まるで夢でも見ている心地だ。自分がこんな報いを受けるだけの善行をいつどこで働いたのかと、今日までの人生を振り返って、悩まくてはいられなくなる。

 こんな気持ちは初めてだ。少なくとも「美咲さくら」は、生まれて今日までこんなときめきを知らなかった。

 胸が詰まって苦しいのに、その苦しみに、いっそ殺されてしまいたい。

 仕方がない。さくらはこのはに憧れていた。雲の上の存在だった。

 だのにこのはも、さくらを知ってくれていた。さくらのことを、見てくれていた。

「そうだわ先輩。さっき騒いでいた人はどうなりましたの?」

 このはの顔に、心なしか困ったような曖昧な笑みが浮かんだ。

 「……生徒会書記の、真淵(まぶち)先輩のこと?ちょっと倒れちゃったみたい。保健室の先生に連絡しよっか」

 一瞬だけ、このはの目が泳いだ気がした。

 このはの金髪のツインテールがふわりと靡いて、その肩が、壁にやんわり寄りかかった。

 さくらは、このはが携帯電話を耳に当てて見つめる先を、目で追う。

 すると確かに、モヒカン頭の少年が、仰向けになって倒れていた。右目付近に浮かんだ青痣が、痛々しい。

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