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青い桜は何を願う

第10章 エピローグ


 待ち焦がれた週末は、うんと濃縮させて胸に刻み込まんと決め込むのも虚しいまでに、あっという間に終わっていった。

 さくらは莢と別れて終電近くまでこのはと過ごした翌日、日曜日というまるごと白紙のスケジュールを、新入生歓迎会に向けてのラストスパートの作業にあてた。黙々と手を動かしながら、途中、このはと何度かメールを交わした。
 翌日、西麹は、さくらからすれば非現実的に感じられるほど、普段と変わらない週明けのムードが充満していた。今年の新入生歓迎会のステージ発表は、手芸部と演劇部が前後に組み込まれている。稽古にあてがわれる時間もプログラムに準じられており、さくらは講堂に入る間際、このはとすれ違った。昼休みになればいくらでも話せるのに、無性に得した気分になった。
 透が真淵と妃影を連れて、空き教室へ向かっていった。家庭科室に残された一同は、暫しの休息をとりながら、席を外した部長と副部長に関して、何ら疑問も抱かなかった。真淵は生徒会書記だ。妃影が同席したとなれば、別室では、事務的な話が行われていようと見当がつく。だが、さくらは化粧直しのために化粧室へ出かけがてら、見かけてしまった。西麹一の温厚な文化系少年が、西麹一の荒くれ者とマドンナを、床に正座させていた。さくらは透が何やらがみがみ説教を垂れているらしいのを扉の窓から認めるや、何も見なかったことにして、そそくさとその場を立ち去った。

 立ち稽古にリハーサル、最終確認──…文化祭ほど大がかりなステージではなきにせよ、一日、一日と必要な行程がこなされるのに比例して、一つの舞台が仕上がってゆく。まりあや透、妃影、ひよりや百合子、そうした大好きな仲間達と力を合わせて築き上げる三十分間のファッションショーは、さしずめ得も言われぬ煌めきをまとったイリュージョンだ。
 手製の衣装とアクセサリーを身につけて、舞台に立つ。狭衣、装身具のコンセプトを投じた架空の人物は、実在のドールでないのと同時に、さくら自身でもある。見せるものが生きるか霞むか、さくらの表情、姿勢、立ち振舞いにかかっている。さくらはステージに立つと、少しだけ、このはの芝居に傾倒している気持ちが分かった。当たり前に耽っていた楽しみが、この春に限って、まるで夢のように感じる。

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