青い桜は何を願う
第10章 エピローグ
このはは、彼女の定番とも言えるナチュラルガーリースタイルではない。ツインに結わえられたロイヤルミルクティー色のミディアムヘアは、ピンク色のミニ薔薇がちょこんと咲いた黒と白のレースが重ねてあるボンネットで飾ってあって、その装いは白い丸襟ブラウスに黒いジャンパースカート、おまけにさかさまにしたすずらんよろしく豪奢なパニエが仕込まれている。大きな目許はピンクが基調の化粧によって、平素よりぐんと際立たせてある。
流衣は私服に戻っていた。オフホワイトのジャケットにくすんだパステルブルーの開襟シャツ、チャコールグレーのスラックスというとり合わせに、自然な栗色の髪にコーラルの目立つ薄化粧、さっきまでのチェシャ猫の面影はない。
「銀月先輩、お着替えになりましたのね」
「私まで衣装のままだと、注目が」
「ですからっ、先輩は部室で待っていて下さっていれば良かったんです。私なら平気です」
「ダメだってば。こんなに可愛い帽子屋さん、一人で歩かせちゃ、ナンパや盗撮の餌食になる。ただでさえ舞台衣装は目立つんだ」
「先輩と並んで歩く方が、目立ちます。さくらちゃんも舞台衣装ですよ?赤信号、二人で渡れば、怖くありません」
「──……」
さくらは、まりあに流衣の写真を頼まれていた。あのミーハーな親友は、透という先輩以上恋人未満の存在を持っていながら、流衣にまでうつつを抜かしているのだ。
この際、私服姿で良かろうか。さくらはこのは達があれやこれやと言い合っている傍らで、まりあに確認のメールを送る。
「はぁ。さくらちゃん、本っっ当、可愛い。写真撮らせて。っていうか、一緒に撮ろう」
「えっ、あの?」
「先輩は、戻っていただいて結構です。万が一さくらちゃん目当ての野次馬が来たら、殴り飛ばしますので」
「そういうのあてにならない」
「何なんですかぁ、まだこの前のこと、……。心配していただかなくても、真淵なら懲りて当分来ないですってば!」
「美咲」
甘ったるくて凛とした雰囲気、澄んだ双眸、嬋娟たる声──…流衣は、どこもかもが美しい。
だから不安になる。ただ美しいだけの令嬢ならともかく、今しがたさくらを呼んだ上級生は、あのユリアだ。いにしえの時、リーシェが僅かにでも憎んだ、それで結局、リーシェ自身が自分の醜さを思い知らされただけの原因となった、天祈の少女の生まれ変わりだ。