
青い桜は何を願う
第3章 青い花の記憶
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さくらは屋上へ急いでいた。
まもなく最上階という地点、今まさに狭い階段が見える手前で、さくらは思わず足を止めた。
「流衣先輩に私の何が分かるって言うんですか!……これ以上先輩にそういう態度をとられるなら、私、首をくくります!」
聞き知ったソプラノの声が聞こえてきて、さくらの思考が停止した。
少女が一人、前方から走ってきた。そしてさくらの脇をすり抜けて、逆行に姿を消した。
俯き加減で顔はよく見えなかったが、今のは銀月流衣ではないか?
さくらは、今しがたの少女に振り返る。
昨日は真淵と、そして、今日は流衣と喧嘩か?
このはの悲痛な絶叫が気になる。それにさくらは、すれ違いざま、流衣からとてつもない憎悪を浴びせられたのではなかったか。睨まれた気さえする。
「…………」
さくらは、前方の曲がり角に向かって駆け出す。
薄暗い階段を見上げると、このはがへたり込んでいた。
「さくらちゃん!」
このはの姿を目にした瞬間、どきりとした。柔らかな身体を包んでいたはずの、真っ白な花柄のワンピースが、通常ではありえない乱れ方をしていたのだ。
「あっ……えっと……」
ワンピースの襟ぐりに施してあるシャーリングがずり落ちて、このはの肩から胸元が、露出していた。パステルブルーのスリットだけが、かろうじてしどけないところを隠していた。
頼りなげな肩から伸びた腕が、小さく震えているようにも見える。
これでは、暴行にでも遭ったような有様だ。
このはのワンピースの裾から覗いた足首に、打撲痕が滲んでいた。じわりと血が浮かんでいる分、余計に痛々しい。
さくらは、このはの衣服を乱した張本人でもないのに、罪悪感に責められる。
そうして半裸のこのはを直視出来なかったものだから、見落としていた。さくらは、このはが左側の胸を押さえて、不自然に何かを隠していた怯えた瞳の奥に、気が付かないでいた。
