
青い桜は何を願う
第3章 青い花の記憶
「大丈夫。さくらちゃんが来てくれたからね、私の運気は回復に向かってるんだよ。さっきまでは最悪だったけど」
「あ、あのっ……すみません」
「謝るなら私でしょ。昨日も今日も、格好悪いとこばっかり見せちゃって」
「格好悪くなんて、ありません……」
「ふふ、ありがと。あーあ、野郎もキザな女も大嫌い。流衣先輩の他にもいるんだよねぇ、女が皆、自分の思い通りだ、みたいに思っているやつ」
「──……」
「でもね、さくらちゃん。私は本当に平気だから。誤解して欲しくないから、さくらちゃんには、本当のこと、言うね」
さくらは、内緒話でもする格好で、このはに身を寄せられる。
甘い吐息に耳がくすぐられてきて、指先が髪に触れきた。
また、胸がとくんとときめく。
「さっき私」
さくらに甘く柔らかなソプラノの声が、そっと囁きかけてきた。
「私、流衣先輩に脱がされそうになったんじゃないよ。掴み合いの喧嘩になって、気が付いたらああいう格好になっていたの。先輩も私も血の気多いんだぁ」
私が純潔をあげられるのは、貴女だけだよ。
このはの冗談なのか本気なのかも分からないこのはの言い草に、顔が一気に熱くなる。
「いっただきますっ。はい、さくらちゃん、あーん」
さくらは、このはのペースに丸め込まれる。
鼻先に近づいてきた卵焼きを頬張ると、口いっぱいに、甘くてふわふわしたものが広がった。
遠くでミルクが仄かに香る、甘い甘い卵焼きは、このはらしい味がした。
