
青い桜は何を願う
第3章 青い花の記憶
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このはは下校の時刻になると、莢がメールで指定してきた待ち合わせの場所へ向かった。
莢は、この近くに祖父母と三人で暮らしているらしい。
このはは、メールに添付された地図に従って歩いているのに、さっきから同じ場所をぐるぐる回っている気がしてならない。
電信柱に、また、数分前にも見かけた広告が貼ってあった。
いい加減うんざりしてきた頃、事件は起きた。
「花の聖女様。お覚悟を」
このはが振り向くと、二十歳前後の青年達に、いつの間にやら包囲されていた。
このはは青年達を見回した。
ざっと二十人といったところか。
「我々も小娘に手荒なことはしたくない。一条先生がお待ちだ。おとなしく第二創世会へ来い。命だけは助けてやる」
青年達は、自ら聖花隊と名乗っている連中だ。「花の聖女」と呼ばれる少女の捕獲を使命とする、荒くれたエリート集団だ。
「花の聖女」とは、新興宗教、第二創世会が聖書の中で崇めているという少女を指す。この世に奇跡をもたらすらしい。そして、幻の王国、すなわち氷華王国の王族の転生した存在だ。ただし「花の聖女」と認められるには、氷華の記憶と、身体にある目印がなくてはいけない。
「「花の聖女」の魂を持って生まれた女の身体に浮かび出る、青い花の痣を持ってんのはお前だろ?聖女様」
「そんな証拠がどこにあるの」
「桜にそっくりな匂いだよ!」
青年が叫んだのと同時に、自然の悪戯か、このは達の間を一陣の風が通り抜けた。
途端に、甘辛い桜の芳香に、否、それより甘ったるい、毒に頭をやられるような魔性の匂いがたなびいた。
臭覚が、つんと痺れる。
不思議な芳香の出所は、このは自身の左胸だ。
「おまけに、聖女様の前世は金髪の姫君ときている。面影残してしらばっくれてんじゃねーぜ」
このはは、今にも堪忍袋の緒が切れそうだ。
それでも下手に青年達の神経を逆撫でするわけにはいかない。
このはは最近、少人数で、あるいは単身で挑んできた真淵ら聖花隊の一部の少年達を、連日病院送りにした。
彼らは学習したのだろうが、この人数は卑怯だ。
このはは、青い花咲く左胸に手を当てて、俯いていた。
昼間、流衣にワンピースを乱されたのも、この痣を暴かれそうになって、無理に隠そうとしたからだった。
