
青い桜は何を願う
第3章 青い花の記憶
「くそっ、こうなりゃ力ずくで──」
聖花隊の一人の青年が地面を蹴った。
筋肉質な体つきの、栗色のパンチパーマの青年が突進してきた。
このははぐっと覚悟を決めると、青年の拳を掌で受け止めた。
「……くっ」
パンチパーマの青年を筆頭に、他の青年達も闘志を燃やす。
拳を捕らえた青年のみぞおちを蹴り上げて、背後から襲いかかってきた別の青年を、力任せに殴りつける。
背丈の低い、青白い顔をした黒縁眼鏡の青年が、飛び蹴りを繰り出してきた。
このははそれをよけると、すかさず、このグループのリーダーと思しき長髪の青年の顔面に拳を見舞った。
「こ、このアマっ……」
「おい、油断するな、慎重にいけ!」
このはは、次々と襲いかかってくる青年達を、黙々と地面に叩きつけてゆく。
負けては、全てが終わる。
そうだ。このはの胸にある痣は、「花の聖女」である証だ。氷華王国にのみ咲く毒花のシルエットをしたこの痣は、桜にも見えて、また、桜の如く芳香を放つ。
だが、このははあのオフ会の夜、莢に、胸にある青い花の痣を隠した。気を付けていれば、桜の匂いもある程度は抑え込んでいられるものだ。
この花の痣が偽物だからだ。
このはは、莢も聖花隊も欺いて、誰に殺されてもならない。
偽物の王女として生きる。それがどんなに危険か分かっていても、大切な少女を、リーシェ・ミゼレッタを、守りたい。
青年達の過半数が路上に倒れ伏した頃、二日前のオフ会で知り合った美しい騎士、もとい希宮莢が立っていた。
「やっぱり迷ってた。ついでに手、煩ってるみたいだね」
「どうでも良いから手伝って」
「お姫様の仰せのままに」
莢が加勢してまもなく、青年達は全滅した。
