
青い桜は何を願う
第3章 青い花の記憶
早は中学に入ってまもなく、いわゆる「ワル」の世界に踏み込んだ。仁義を愛し、誇りと情けを胸に宿した、渋い大人に憧れたからだ。
酒や煙草は常識だった。夜な夜な繁華街を徘徊した。売られた喧嘩は片っ端から買って、仲間と共に汗と涙と血を流した。
連んでいた遊び仲間達とは熱い友情で繋がっていた。派手な外見とはよそに、皆、老人やら子供やらに対して、そこいらの優等生達より親切だった。
早がリーゼントの髪を試みて、失敗してモヒカン頭になった時は、初めての挫折を味わいかけたが、仲間内では存外に好評を得て、新たな境地を拓けたものだ。
中学二年生にもなると、ピアスの数は二十を越えた。早は町の交番で、有名人になっていた。
高等部に上がって、久しく、やんちゃからは足を洗った。
早は素行も落ち着いて、今では生徒会の一員だ。
それでも早にとって、今でも「ワル」こそ史上最強のヒーローだ。
早はこの世界に足を踏み入れて、勇気や友情、数え切れないほどのものを得た。
代償に、早は、いつの間にか大人達や同年代の人間達に、不良のレッテルを貼られていた。
早は後悔していない。
他人の機嫌を窺いながら生きるほど、格好悪いことはない。
早は早なりに戦っていた。
それに引き替え、透は昔から病的なまでに模範的な少年で、今では手芸部の部長などという肩書きを持っている。
正反対な二人が何故、十年以上も変わらず互いを友人として認められるのか。
早自身、その答えを知っている誰かがいるなら、早急に教えて欲しかった。
ただ、これだけは分かっていた。
早がどんなに変わっていっても、透は、あくまで「真淵早」という人間を、いつでも真っ正面から見つめてくれていることだ。
