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青い桜は何を願う

第3章 青い花の記憶


 不意に、早の額に透のそれがくっついてきた。

「テメェ、桐島!何しやがるっ、殴んぞこらっ!」

「うん、微熱だ」

「ぁああ?」

「目元のこの傷も、昨日の怪我と関係あるの?喧嘩はもうしないって言ってたのに、早、最近どうしたの?」

「──……」

「ウチの部に美咲さんって子がいてね、偶然聞いた話があるんだ。早、弦祇さんって子と揉めたんだってね。美咲さんも詳しくは話してくれなかったけど」

「…………」

「僕はありえない話だと思うんだ」

「──……」

「早、子供とお年寄りには手を出さなかった。万引きやカツアゲも大嫌いだったし」

「……透……」

 早は透の、どんな時も冷静に物事を見極めようとする姿勢に感服していた。

「オメー、そんなこと覚えてやんのか」

 早の、このはに殴られた傷の上に、透の指先が触れてきた。

「美咲さんは早みたいに潔癖だから、嘘をつく子じゃないと思う」

「──……」

「けど、早が下級生に手を上げようとしなんて、考えられない」

「透」

「早自身の意思じゃ、そういうことはしないよね」

 早は、何もかも見透かされかねない透の瞳に、怯んでいた。

 透の指先が離れていった。

 早のガーゼの下で疼いていた目元の傷が、気の所為か、少しだけ痛みが和らいでいた。

「何が言いたい」

「聖花隊」

 案の定、透の口から、耳に痛い固有名詞がぽつりと出た。

「早が中学の頃から始めたバイト。聖花隊は、表向き第二創世会の信徒さん達が読んでいる聖書に出てくる、聖女を崇め奉るための団体組織だって公言されてる」

「よく知ってんな。そうだぜ。俺の仕事は聖女探しだ。兄貴から指示された土地を調べに行ったり、文献やネットの文書を探して、分析結果を提出している」

「「花の聖女」は、生身の女性でしょう?」

「文句あんのか」

「あるよ。聖女探しのために、無関係な女性を誘拐した前科のあるグループだっているんでしょう。犯罪じゃないか。第二創世会のパトロンには政界の人達がたくさんいて、そういうことが起きても隠滅出来る力がある。裏では危ない実験場まであるって。警察も動かないなんてどうかしてる」

「桐島も、ニュースやら新聞やらが騒いでいやがる犯罪に、第二創世会が絡んでるって言いてーのか」

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