
青い桜は何を願う
第3章 青い花の記憶
透は否定しなかった。
「昨日も行方不明の女の子の遺体が発見されたね。足首に花のタトゥーがあったって。第二創世会の実体は、ただの宗教団体なんかじゃないんでしょう?」
「だったら何だ」
「聖花隊を、辞めて」
「……──!」
「早は聖花隊に入ってから、苦しそうだよ。やんちゃな中学生の頃の方が、生き生きしていた。イジメを見ても、早、助けてあげなくなったね。悲しい目をして、逃げてる」
「余計な世話だっ……」
「そうやってわけの分からない怪我して帰ってくるんだから、お節介も言いたくなるよ!」
透の言葉は痛かった。
滅多に怒らない透に声を上げられると尚更だ。
しかし、早が第二創世会にこだわるのには、それなりの理由がある。
「透」
透をファーストネームで呼ぶことが、いつから照れ臭くなったのだろう。早は透を、今や「お前」とか「桐島」とか、学校ではそんな呼び方しかしなくなっていた。
透は変わらず「早」と呼んでくれるのに。
「透の言いてぇことは分かった」
「じゃあっ」
「今辞める訳にはいかねぇ」
「──……」
早は布団から起き上がる。あからさまに沈みきった透を面倒臭がりながら、自分よりずっと華奢なその肩に手を置いた。
いい歳をした男が幼馴染みにスキンシップなど格好悪いが、今はこうしたかった。
「俺ら人類に希望の光はもうすぐ来るんだ。俺は光を、光をもたらして下さる聖女様を保護したら、お前の言う通り聖花隊を辞める。ぜってぇ辞める」
どんな奇跡も叶えてくれる、「花の聖女」と呼ばれる一人の少女、青い花のしるしを身体に持つ一人の少女に救われる日は、もうすぐ来る。
早は救って欲しかった。
早には、「花の聖女」が必要だ。「花の聖女」に、もう一度チャンスを与えて欲しい。
