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青い桜は何を願う

第3章 青い花の記憶


「このは……?」

「貴方は強かったから、私はリーシェ様を任せられたのっ……。こんなこと認めたくないけど、私は貴方を信じてた!真っ直ぐだったカイルに励まされたのかも知れないね、私も負けずに自分に出来ることをやろうって、精一杯やろうって頑張れた。あの時は……」

「このは、一体貴女は」

「今の莢はダメ。今の莢は、私より弱い。私みたいに、弱いよ……」

「…………」

 莢は、このはの清冽な二つの黒曜石に、殺されそうになっていた。

 そしてこのはが何者か、やはり分からない。

「そういう貴女を見せないで。私、怖い。負けちゃう、負けちゃうよぉ……」

 莢の胸に、このはの額がぶつかった。

 昼間とは違う、下ろされたままの金髪が、闇夜を染める月光よろしく寝間着の袖に被さっていた。

 一つ年上の少女の手首から、もの凄い震えが伝わってくる。

 莢の不安を咎めてきたこのはの思いが、伝わってくる。

「負けたくないの、あいつらにも、私自身にも……。だけど、昨日みたいなことがあるとね」

 この戦いの先に、未来があるとは限らない。

 このはは、この期に及んで迷っているのか。

「このは」

「ひゃっ」

 莢は、このはの片腕を引っ張った。

 崩れ落ちてきた肢体を受け止めて、小さな顎をついと捕らえる。

 莢は、小さな悲鳴を上げた柔らかな唇に、自分のそれを押しつけた。

 無防備な、見た目よりふんわりした唇を、撫で回すようなキスで啄む。

「何、してるのっ……んん」

 このはの逃げてゆく腕を、それでも無理矢理捕まえて、今度こそその身体ごとシーツに押しつけた。

「どういうつもり?!」

「癒してあげる。怖くて苦しいんでしょ?だったら何も考えなければ良い。このはを解放してあげる。このはも慰めてよ──…俺を」

「私は傷を舐め合いたくなんてない。現実逃避なんてごめんだよ!」

「現実逃避?それも良いじゃん」

 微かな甘辛い匂いが鼻を掠めた。

 理由はいらない。
 莢はこのはが欲しくてたまらなくなった。

 このはの、触れれば指先に吸いついてくる質感の肌に、軽く触れるだけのキスを落とす。

 甘ったるい体温を含んだ吐息は、並大抵の少女らしく、妖艶だ。頼りなげで柔らかな肉体は、成熟した女性にはない、無垢な危なっかしさを備えている。

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