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青い桜は何を願う

第3章 青い花の記憶


「や、いや、放して、莢!」

 金髪に唇を寄せると、力いっぱい胸倉を叩かれた。

「黙って」

 これは欲望だ。

 確信があるから、罪悪感がまるでなかった。

 莢はこのはを愛しているのではない。このあどけない心身を、掴まえて、一人で羽ばたけなくなるまで無様にして、壊したい。それだけだ。

 このはに貸したベビードールは、いつだったかデートの後、部屋に泊めた年上の女性が忘れていったものだ。

 莢は、そのゆきずりの女性の顔も名前も、今は思い出せない。







 このはは薄暗がりの中、力任せに暴れても、莢の力に敵わなかった。

 莢は、氷華一の武人カイル・クラウスの魂を継いでいるだけあった。儚げな容姿に反して、昨日の夕方の一件からしても、並大抵の少女達とはやはり違った。

 このはは手首を枕元に押さえつけられて、脚を絡ませられている所為で、自分を組み敷く莢の身体をはねのけることも出来ないでいた。

 首筋をキスでなぞられて、ベビードールをまくり上げられた。
 肌を啄んでくる唇がくすぐったいのか、早朝の冷気がくすぐったいのか、分からなくなる。

 何て情けない有り様だ。

 このはは、自分の太股をまさぐってくる莢の手から逃れんと夢中になって、なり振り構わないでもがく。

「くぅ、ん、ふぁっ……し、死んでやる!貴女を殺して、私も──」

「やれば?」

「……──っ」

「リーシェ様を残して死ねるなら、やれば良い」

「……くっ……」

 出来るはずない、と、このはは思った。

 莢には教えていないことだが、聖花隊の探している「花の聖女」は、さくらだ。

 このははさくらと初めて別棟で話したあの時、未だかつてなかった気高く懐かしい芳香が、濃密に辺りをとり巻いていたのを感じた。それで、確信したのだ。

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