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青い桜は何を願う

第4章 私達にリングはいらない


「父さんは、見当を誤った」

「はい……?」

「もっと、従順な姪を娘にすべきだった」

「…………」

 流衣に時折押し寄せてくるビジョンは、前世の記憶だ。

 天祈には、イェンヒェルに仕える軍人でありながら、氷華の士官に恋をして、皇家に背いた人物がいる。

 それがかつての流衣だった。そして、今生も、イェンヒェルを敵に回そうとしている。

 ことごとく反逆精神を懐に持った人間が、銀月の本家にいる。なんて滑稽な話だ。

「ごめん。着替えるから、そろそろ──」

「流衣ちゃん」

「っ──…」

 流衣の視界が、一瞬、真っ暗になった。

 男特有の人間臭に、全身をふわりと包まれる。

「…………」

 流衣は、行夜の腕の中にいた。

「……離れろ」

「すみません。でも、……」

「──……。父さんに、知られたら」

「…………」

「行夜」

 流衣は、行夜のスーツの袖にくるまった筋肉質な腕に、片手を添える。

 両親と呼んできた叔父と叔母、二人のものより、ずっとずっと安心出来る。懐かしい、体温だ。

「行夜」

「何か?」

 行夜がすっと離れていった。

 流衣の隣に、無礼な使用人が腰を下ろした。

「もし、もしもの例え話だ。前世に大事な人がいて、生まれ変わったら一緒になろうと約束した人がいて、今、本当にこの世でその彼女と逢えたとする」

「…──流衣ちゃん」

「だが、彼女は私とのことを忘れている可能性がある。あるいは、前世での最期の日、苦しんで……私とこのとを、否定しているとする」

「随分、具体的ですね。それで?」

「彼女は今、危ない橋を渡ろうとしている。私は彼女を止められない。彼女を安全な場所へ移したいと願えば願うほど、彼女との溝が……広がるとする」

「……流衣ちゃん……」

「例えばの話。そういうドラマを、昨日、観てたんだ。行夜なら、どうする?」

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