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青い桜は何を願う

第4章 私達にリングはいらない


「あの、このは先輩」

「さくらちゃん」

 顔を上げたこのはと目が合った。

 真剣なこのはの眼差しだ。苦しそうな、あどけない、そして高貴な目の色に、さくらの時間が止められる。

「さくらちゃん、あのね」

 囁くような、声だった。

「さくらちゃんは、リングってどこにつけるかな?」

「あっ、え……何のお話ですの?急に」

「人差し指?それとも薬指?見た通り、細いね。大切に扱わないと折れちゃいそう」

「えと、あの、このは先輩……?!」

 状況を把握する隙も与えられないで、このはに手首を捕らわれた。

 ただ手首を触れられて、見つめられているだけなのに、頭がくらくらして何も考えられなくなる。

 胸が、甘く、痛く、どきどきする。

「……私じゃ役不足?」

「……え……」

「さくらちゃんと私には、リングなんて似合わない。あんなもの、型に縛られるのが大好きなだけの、ギラギラした大人がままごとに使うものなんだ。目に見えるもので繋がらなければお互いを信じられない、エンゲージリングはね、寂しがり屋達に必要なものなんだよ」

「…………」

「私の想いを信じて。さくらちゃんのものにして。この身も心も、貴女にあげると決めたから。貴女を満たせるもの全て、運命も……」

 ──貴女のものなの。

 このはの唇が薬指に触れた。

 その瞬間、さくらの中で何かが弾けた。

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