
青い桜は何を願う
第5章 黄昏の三つ巴
少年達とはまた別方向の死角に、少女達が二人、身を潜めていた。
「しつっこい。莢が付いてきただけでも不本意なのに、真淵の野郎、仲間連れてさくらちゃんのこと監視してるし!」
「何で、あの美人ちゃんが?」
「……私のカモフラージュ作戦は完璧だったはずなのに、何でさくらちゃんが氷桜盛られちゃったんだろ。本物だから身体は大丈夫だろうけど」
「っ……やはり、あの子なんだ」
「──……」
「生まれ変わってもこのはが私を憎む理由が、分かったかも」
「違うよ」
少女の一人がはっと目を惹く金髪を靡かせて、もう一方の、神話にまみえる騎士の風采をした少女に背を向けた。
「私は、リーシェ様じゃなくて、さくらちゃんっていう女の子を愛してるんだよ。一緒にしないで」
「やめて。可愛らしい子を泣せるのは趣味じゃない」
少女の涙を優しく拭った少女が、奇跡のように気高い黒い瞳を細めて微笑った。その亜麻色の髪は、黄昏の光を吸い込んで、天使の輪を浮かべていた。
少女達の二つの影が、一つに重なる。
あどけない妖精の雰囲気をまとう少女の腕が、そのふてくされた表情とはよそに、連れの少女の背に回る。
二人に内在するかなしみは、きっと、神にさえも計り得ない。
意識が限界に近づいてきた。
さくらの視界が、複数の男達の影に覆われた。
恐怖におののく隙もなく、誰かの腕に抱き留められたのは、突然のことだ。
さくらは自分を呼ぶ声に、不思議と懐かしさを覚えた。
初めて耳にした声なのに、知っている。
「…──リーシェ様!」
甘くて凛々しいメゾの声は、泣きそうな顫えを孕んでいた。
第4章 黄昏の三つ巴─完─
