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青い桜は何を願う

第6章 心はいびつにすれ違う


* * * * * * *

 夢を見ていた。
 氷華にいた頃の夢だ。

 魂の奥底に仕舞い込んで蓋を閉めて、壊れないよう大切に、護り続けてきた。

 さくらはリーシェの幸せな記憶をひとときだけ取り出して、束の間の安息を貪っていた。

 カイルに、逢いたい。

 カイルに逢えるまでに、元気にならなくては。

 最後に交わした約束を、二人の思い出がたくさん詰まったあの海で、再会の約束を果たしたい。十六才の誕生日は、もうすぐだ。

 意識がだんだん冴えてきた。

 さくらは、深い眠りから覚めた。

 起き抜けならではの少しの気だるさはともかく、目覚めは快かった。

 どれくらい眠っていたのだろう。
 そしてさくらは道端で倒れたはずなのに、今まで随分、寝心地良かった。ここは、どこだ?

 さくらは上体を起こして、辺りを見回す。

 見知らぬ部屋だ。

 さくらは一抹の不安を覚えながら、意識を失う間際のことを、今一度、思い起こす。

 怖ろしげな男達の影に迫られた。声も上げられなくなった瞬間、身体が誰かの腕の中に包まれた。

 …──リーシェ様!

 その声は、泣きそうで、優しくて、懐かしかった。

 ──リーシェ様。

 それは久しく呼ばれた名前だった。

 さくらは右手首を確かめる。

 花の痣は、仄かな青い色素の混じった、氷の如く白さをしていた。身体の熱も引いている。

 まるで何事も起きなかったようだ。

 いくらミゼレッタ家の人間でも、一週間は風邪に似た症状に苦しむはずなのに、不可解だ。

 さくらは、ふかふかのベッドから、改めて部屋を一望する。

 きっちり整頓されている、生活感より装飾性の強い部屋だ。まるで雑誌から抜け出てきたみたいだ。

 突然、ドアの開く音がした。

「え、あっあのっ?!こ、このは先──」

「気が付いたんだ。良かったぁ」

 このはが朗らかに笑った。ただし、どこかわざとらしい。

「このは先輩が、私をここまで?……有り難うございますわ」

 訊きたいことは沢山あるのに、訊いてはならない気がしていた。

「このは先輩、私……」

 その時、廊下から、電話のベルが響いてきた。

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