青い桜は何を願う
第6章 心はいびつにすれ違う
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「ごめん、待たせちゃったね」
さくらがベッドの側に膝を抱えて座り込んでいると、このはの声が聞こえてきた。
「私の方こそ、お世話になってしまって……。そろそろ帰りますわ」
同じ部屋の空気を吸って、このはと一緒にいるだけで、どうしようもない思いになる。
言葉にならない愛おしさが、身体中から今にも溢れ出しそうだった。
「送っていくよ」
「でも」
「夜も遅い。こんな時間にさくらちゃん一人で歩かせられないよ」
「平気、です……」
「さくらちゃん……?」
「何でもありません」
「あ、そうだ。忘れない内にね」
さくらは、このはに何かを握らされた。
美術館の入場券だ。『華のロココ~近代フランス絵画展~』と印刷してある。
「さくらちゃん、こういうの好きだって聞いたから。期間限定で、来週の土曜までやってるんだってー。近くにお花見名所もあるみたいだし、デートしてくれない?」
「でも、部活……」
「息抜きも大切だよぉ。抜けちゃおうよ」
さくらの耳許に、このはの悩ましげな吐息が触れる。早々に、決意が揺らぐ。
「このは先輩ってば。私なんてデートの相手になさっては、先輩の大切な方に叱られてしまわれましてよ」
悪戯っぽくさくらは笑った。つもりだ。
が、かなしいかな、さくらはポーカーフェイスではない。
「大切な?って、何の話……」
さくらが首を横に振ったやにわ、このはに腕を掴まれた。
「このは先輩っ……私帰ります、っ……!」
「放っておけない!」
どうかしている。
どんな事態に衝突しても、にこにこ笑っていれば良い。
さくらは、それで悪いことなどなかったではないかと今日までの日々を振り返っても、笑えなかった。このはの手を振り払わんと、必死でもがく。
それなのに、さくらは、このはにしっかり抱き締められてしまった。