テキストサイズ

青い桜は何を願う

第6章 心はいびつにすれ違う








 さくらは、このはの私室の窓から、夜空に浮かぶ月を眺めていた。

 欠けた月は、白くも見えて、朱くも見える。

 どちらだろうか。

 さくらが首を傾げていると、後方からノックの音が聞こえた。このはが湯浴みから戻ってきたのだ。

「お姫様が悪い夢にさらわれていないかと思って」

 笑えない戯れ言だ。

「──……。このは先輩の恋人さんに、怒られますわ」

「恋人さん……?」

 呟くような囁くようなトーンをしたソプラノが、心底不思議そうな音を帯びた。







 さくらは、このはに胸の内を打ち明けた。
 その間、このははさくらの話を聞きながら、髪をとかしてくれていた。大切なものを慈しむ手つきで髪に触れてくれるのに、じわじわ、困憊した気配が押し寄せてくる。

 やはり、さくらに言えないことがあるのか?

「あの、このは先輩。無理にとは──」

「いや!」

「はいっ?」

「あ、ごめん。あのアマ──…じゃなくて、彼女と私、そんなに仲良さそうだった?」

「え、ええ」

 頷くと、さくらの背筋に、重厚なマイナスオーラがのしかかってきた。殺気にも近い。

 さくらは身の危険を感じた。

「彼女は相棒みたいなものだよ」

 このはの声音は、ぼそっとしていた。

「あ、違うかな、でもそんな感じの、どう言ったら良いのかな……気を遣わない、えと……」

「仲間?」

「そうは思いたくないけど、多分そう。いや、違うかな、そんな良いもんじゃない……とにかく、お願い!あんな女グセの悪いやつと恋人じゃないって、信じて!…──お願い!」

 さくらの誤解は心外だったらしい。

 このはがそこまで電話の彼女を嫌がる理由は分からなかったが、気を遣ってくれているとも思えなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ