青い桜は何を願う
第6章 心はいびつにすれ違う
「人間にね、なんか馴染めないんだ…──私。変な話なんだろうけど、心から向き合えない。本音を言い合える人なんているはずないって思ってた。けど彼女は違った。似てるの、私に」
「大切な方ですのね」
「うーん……分かんない。ただ、ちょっと、今日は怪我しちゃってて」
「まさか、モヒカンの先輩方に関係が──…」
さくらが弾かれるようにして振り向くと、唇が、このはの柔らかな指先に塞がれた。
「…………」
「電話もらって安心しちゃった。なんて。彼女には心に決めた人がいるんだけどねぇ。私にはさくらちゃんがいるから、彼女の心に決められなくて良かったよ」
「あの、お加減は?」
「何ともないって。さくらちゃんっていう女神様のお陰だよ」
「お上手ですわね」
さくらはこのはの冗談を受け流しながら、胸裏に温度が戻ってくるのを感じていた。
「いつもみたいに微笑ってよ。ううん、それが本当のさくらちゃんかな」
抱き寄せられて、このはの指が、今度は頬に触れてきた。
「優しいから傷付きやすくて、でも、気高い貴女はぎりぎりまで我慢するんだね」
まるで遠い昔から、さくらを知っているような口ぶりだ。
このはの一言一言に、胸が騒ぐ。
「さくらちゃんの素顔を暴いたのは、月の魔力?だったら許さない」
──誰にも貴女を自由にさせない。
「おやすみなさい」
「また明日」
さくらはこのはにウエストを引かれて、天蓋付きのベッドに入った。
ふかふかの布団にくるまって、二人、片手を繋ぐ。
羽毛の中で、互いに体温を分かち合うだけの宵越しは、どんな映画や小説より、ロマンチックな一晩だった。