青い桜は何を願う
第6章 心はいびつにすれ違う
『私は氷華に忠誠を誓った身。リーシェ様に魂を約束した、リーシェ様のはしためなんだ。氷華は天祈に表向きは屈していても、交流することはよく思われてない。私、だから相手が貴女でも……いつか、どちらかを選ばなくちゃならなくなったら、私……』
『良いよ』
『……えっ……』
『デラの好きなようにしな。君に納得がいくなら、……私は、君に剣を向けられても恨まない。デラのそういうまっすぐなとこ、愛してる』
『……──っ』
『その代わり』
『……ユリア…』
『っ……!!』
リーシェの視界が真っ暗になった。胸が、氷水で引っかき回されたかの如く空っぽになって凍てついて、立っていられなくなる。
リーシェのいる植え込みの向こう、開けた草原の木陰で、少女達が寄り添っていた。
ロイヤルミルクティー色の髪の小さな少女の腕が、騎士の如く玲瓏な少女を抱き締めていた。大きな目に白い頬、あどけなくて気高い顔が、愛おしそうに、懐かしそうに、とても安心しきって微笑んでいた。
妖精の雰囲気をまとった少女は、その質素な装いとはよそに、風采も雰囲気も、何不自由なく生きてきた貴族の令嬢にも優る高貴なものを備えていた。
リーシェは、おどろおどろしい喪失感にうちひしがれていた。
愛していたのは、カイルだ。見ず知らずの少女が誰を愛していようと、自分の知ったことではない。
ただ愛らしい少女が異国の少女と愛を確かめ合って、来世に想いを馳せる現場に出くわした。
リーシェは何故、それだけで、自分がこれだけの絶望に脅かされているか分からない。
『っ……、……』
異国の少女?二人の内、一方だけが?
リーシェは、また、何故、今自分がそう思ったのか分からなくなった。
同じ血の通った二人が何を幸せそうに囁き交わしているか、もう、耳にも入ってこない。
「っ……?!」
さくらは、寝台から飛び起きた。
携帯電話の時計を確かめてみると、午前八時を回っていた。
夢のような一夜が明けたのだ。このはの姿は、どこにもない。
今の夢は、何だ?
悲しくて苦しくて、とても怖い夢だった。
さくらはリーシェとしてあすこにいたが、あれはリーシェの記憶ではなかった。