青い桜は何を願う
第6章 心はいびつにすれ違う
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「来週、ほんとにやめて。ただでさえ私の可愛い可愛いさくらちゃんの正体バレちゃって、カイルだって、目をつけられているんだし」
『関係ない』
「大ありだっての。大体、莢、他人の恋人に手ェ出す気?!」
『他人の恋人に手、出しているのはこのはでしょ。リーシェ様とデートの約束をしたのはこの私。リーシェ様とカイルの秘密の場所で、感動の再会を果たすのは私』
「うっ……」
『真淵ってやつもひ弱だったし。さくらちゃん一人くらい守れるから』
「そのひ弱な銃刀法違反のモヒカン野郎に斬られたのは、どこの誰ー?」
『あれはつい……。このは!さくらちゃんには話さないで。カッコ悪い』
「訊かれたから話したよぉ。で、結論を出すと、カイルがキザったらしくリーシェ様に約束を押しつけたのって、来週の土曜日だっけ?私、部活休んでさくらちゃんとお花見行ってくるから。莢はゆっくり療養していなさい」
『何その無理矢理な結論!そうやってさくらちゃんを丸め込んだんでしょ?!このは、ちょっと聞いて──』
このはは、電話口で喚く莢の声にも聞き飽きて、携帯電話の通話を切った。
乳白色の空の下、このはは自宅の近隣を散歩していた。正確には、さくらが歩ける環境か、事前に下見していたのである。
取り越し苦労だった。聖花隊の連中どころか、犬の散歩も見かけない。
さくらもそろそろ起きる時間だ。心配させない内に家に戻ろう。
このはは、元来た方向に踵を返した。
事態が急変したのはその時だ。
「…………っ」
「お静かに」
いきなり背後から腕をとり押さえられた。
どこかで聞いた男の声に、耳をざらりと撫でられた。