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青い桜は何を願う

第2章 出逢いは突然のハプニング


「……さくさく」

「どしたの?まりあ」

「いや、さぁ、そこまでむきにならなくても」

「えっ。あっ。えっと……」

 確かに過剰反応だった。

 もちろんさくらは、いくらまりあが親友でも、カイルとの記憶を知られたくない。あまりに非科学的だから、打ち明けるには覚悟がいるのだ。

 さりとてさくらは、このはのことも、話題にされたいものではなかった。

 もし、廊下にまりあの声が漏れてでもいたとする。このは本人に丸聞こえになるではないか。

 想像すると、背筋が凍る。

「そんな顔しないの。美人が台なしよ?さくさく。それにね、恋は自分の気持ちに素直にならなければダメ。弦祇先輩を見るさくさくの目、完全に恋する乙女だと思うんだけどな」

「だからっ、弦祇先輩は憧れよ。それ以上でも以下でもないわ。第一、私にはっ──」

 言いかけて、さくらは咄嗟に口を押さえた。

 その時、昼休みの開始を告げるチャイムが鳴った。

「あっ。お昼だ。さくさく、あたし透様に愛妻弁当渡してくるわねっ。すぐに戻るから待っていて!」

 さくらがほっとしていると、まりあが大振りの紙袋から、弁当箱を引っ張り出した。
 青とグレーの格子柄の風呂敷にくるんである弁当は、彼女が最愛の上級生、手芸部部長の桐島透のために作ったものだ。

 さくらは、まりあが後頭部のポニーテールを揺らして、件の上級生のいるテーブルへ駆けてゆく後ろ姿を見送る。

 桐島透は、類稀なセンスと器用な手先を前任の部長に認められて、昨年の秋、手芸部部長に抜粋された三年生だ。温厚で真面目な人柄は教師達にも評判が良く、一部の女子生徒達に「透様」と呼ばれて、慕われている。
 十七才の少年にしては華奢な体躯に白い肌、垂れ目がちな目に映える黒い瞳は物静かで優しげだ。透の身のこなしや言葉遣いはしとやかで、栗色の髪はいつもシャンプーの良い匂いがほのめいていた。

 さくらは、いつだったかまりあが両手を胸の前で組んで、透を賛美していた隣で、頷いていたものだ。

 まりあが透を連れてさくら達の昼食の席に見えたのは、昼休みが始まってすぐのことだ。

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