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青い桜は何を願う

第6章 心はいびつにすれ違う


 早は興奮していた。

 一日前の出来事は、衝撃的なものだった。

 とうとう、女神を見た。

 美咲さくらの身体に咲く花の痣こそ本物だ。あれこそ本物の「花の聖女」の証だ。

 昨日は思わぬ邪魔が入ったが、さくらの悪運にもきっと限度はあるはずだ。

 このはの連れには昨日深手を負わせたし、マゾヒストでもなければ二度も他人を助けるために、寿命を縮める真似はしまい。

「ああ、そう。忘れない内に」

 早の前に、茶封筒が差し出されてきた。

「今月の給与明細です。いつもご苦労様」

「うっす、今日っしたね。有り難うございっス」

「たまには、皆で遊びに出かけては?」

 早は次成の突拍子もない提案に、困惑した。

 確かに今日は、給料日だ。聖花隊の同僚達にも、平素なら浮かれて自分に褒美を与えてやる者がある。

 が、今日に限っては、そんな悠長なことはしていられないはずだ。

「「花の聖女」は氷桜にやられたのでしょう?だったら、一週間は外を出歩けないはずですよ。解毒剤がない限りはね」

「は……?」

「ああ、ほら。風邪より酷く身体を患うんです。君達にお渡しした氷桜のエキスは一応薄めてありますが、普通の人間には毒以上の毒になります。氷華王族の魂の持ち主でも、一過性の病に倒れる。有名な話でしょう?当分、家にでも押しかけなくては、「花の聖女」をお連れするのは無理ですよ」

 なるほど、昨日の様子を思い起こせば、さくらは今日は学校にも顔を出せないだろう。

「そう落ち込まないで下さい。それに、休戦は解毒剤がなければ……の話ですから」

 氷桜の解毒剤などありえない。休戦はほぼ決定だ。

 早は次成の下手な慰めに、少しも救われなかった。

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