青い桜は何を願う
第6章 心はいびつにすれ違う
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このはは行夜に拉致されて、彼の愛車の後部座席に押し込められた。
西麹の校門付近でほぼ毎日見ている高級車のシートはふかふかで、座り心地は抜群だ。おまけに車内は、薔薇の軽らかな甘い芳香が、ふわりと立ち込めていた。
「帰して下さい!警察呼びます!」
「弦祇様、落ち着いて下さい。少しくらいお時間を下さっても、減るものではありません。いかがでございましょう?このポプリなどは銀月様の屋敷の庭園で摘んだ白薔薇を使用して、女中がこしらえたもので……」
「甘ったるくて落ち着かないって、私は反対したんだが……。行夜が、この方が運転がはかどるって言うからさ。このはがいると絵になるね。さすがお姫様」
流衣と行夜が、勝手に盛り上がっていた。
もっとも、このははポプリを褒め称えている場合ではない。この状況では、さくらに連絡も入れられない。
「用があるなら手短にお願いします」
そもそも、何故こんな時間に住所も離れた二人がいるのだ。不可解だ。
「ね?このははつれないだろう、行夜」
「全くでございます、流衣ちゃん。逃げられる前に、用件に切り出された方が……」
「行夜も言ってることだし、このは。真剣に聞いてくれ」
「……聞いてます」
「手短に言う。希宮莢には関わるな」
「何でそれを!」
このはの喉から悲鳴が飛び出た。
しめやかに車内を流れる優雅なクラシック音楽にも、この衝撃を落ち着けてくれるだけの効果はない。
「何で莢と私のこと、流衣先輩が知ってるんですか!」
確かに、このはは先日のオフ会の前日、流衣に忠告された。
莢はオフ会のみならず、ネットのコミュニティサイトでも、有名人だ。流衣が忠告してくれたのは、このはが、ただ単にあの女たらしにたぶらかされないようにという意味だったはずだ。