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青い桜は何を願う

第6章 心はいびつにすれ違う


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 さくらは部屋着の裾を揺らして、洗面所へ向かうべく、このはの私室の扉へ向かった。

 ソファの上に、新聞紙が置いてあった。昨夜は何もなかったはずだ。

 三面記事に、でかでかと銀月善満の名前が出ていた。

 古の皇族の末裔だという政界の最高権力者は、人の良さそうな顔つきの、白髪混じりの頭の男だ。ナマコに似ている定評のある眉の太さは、なるほど、お笑い芸人のネタにされているだけある。
 モノクロの写真の中で笑う義満は、施設の児童達に囲まれいた。
 身寄りのない子供達や社会から弾き出された人間に、救いの手を差し伸べて、家や仕事を提供している慈善家。それが、このやり手の国会議員の、世間で定着している異名だ。

 だが、義満も、ここ数年で急成長した新興宗教団体第二創世会と同じく「花の聖女」を欲していると聞く。
 善満は、先祖代々から受け継いだ、地球の地下領地を所有している。そこで彼が建国を目指している新たな国家、華天帝国を完成させるために「花の聖女」の力が不可欠らしい。

 さくらがアングラ系サイトから拾ってこられる情報は、ざっとそれくらいだ。

 華天帝国の完成に何故、「花の聖女」が必要なのかは知らない。
 ただ、「花の聖女」が、氷華の王女リーシェ・ミゼレッタの魂の持ち主を指していることは確かだ。第二創世会が出している聖書を読めば、すぐに分かった。

 第二創世会は、若い男達を高い給金で寄せ集めて、「花の聖女」を捜索しているらしい。

 さくらは、おそらく昨日、その一味に狙われたのだ。そして真淵も、その一員だ。

 さくらの脳裏に昨日の声が蘇る。

 あの時の声は、このはの友人だったのか?

 さくらの力尽きた身体を抱き留めてくれた腕の主も、今振り返ると、このはではなかった気がする。
 綺麗な優しいメゾの声と、ミントの香りに包まれた。
 このはと触れ合う時と同じ、懐かしさと切なさが、総身を駆け巡っていった瞬間だった。

 違う、と、さくらの胸奥が、叫び声を上げていた。

 目覚めた時、さくらはこのはの部屋にいた。
 ここ数日、このはがカイルに重なったことが何度もあった。

 それなのに、しっくりこない。

 扉の向こうからノックの音がした。

 「さくらちゃん?起きてる?」

 会いたくて会いたくてたまらなかった、大好きな、このはの声だ。

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