二面性*マクガフィン
第3章 学年1位のエリート
「君は、よく俺らに逆らえるよね」
直球に聞いてみた。
「どうして?」
本題といっても…この女から聞きたいことは多すぎる。
今日という日が、本当に初対面だったのか…。そう思えるくらい、多かった。
だから、少し話を変えて問うことにする。
「あら、話を変えるの?」
目を瞑り、髪を手でなびかせた。
「まあ…いいわ」
目を開くと、落ち着いた瞳が現れた。
そして振り返り、翔とは真逆の方向へと足を進めた。
言葉と言葉のやりくりの中、足音が響いた。
「別に。貴方達なんて、大した人達ではないもの…」
「じゃあ、さっきの質問の答えは?」
言葉を詰めて、追い詰めようとする。
「………………」
女は黙り込んだ。
そして、屋上から出る唯一の扉の前で立ち止まった。
俺たちのこと、どのくらい知ってるのか……
「逃げるの?」
翔の見えないところでドアノブの握って捻ろうとしていた女の手が止まった。
「………………」
言葉の次は体で追い込もうと、ゆっくり…追いかけるように背後に歩み寄った。
気配に気付いたのか、女は振り返って顔を見せた。
「少し前に言った言葉は『逃がさない』だったのに、今度は『逃げるの?』なのね」
そう言われると確かに…と、翔は口元を緩ませた。
「いや…もちろん逃がさないよ」
翔は更に追い込むように足を前に進めた。
「というか…」
女は下がろうと足を動かす……が、背後はドアの壁、氷が当たったかのような冷たさが背中に広まった。
その扉は、こちら側に開くものだった。だから…
「逃げられないよ」
翔の中に、閉じ込められた。
目だけで辺りを見回す。
両サイド、この場から少し遠いところに屋上の手摺、背後には壁、そして目の前…
自分よりも背丈の高い男が、見下ろしている。
「…………………」
その顔…それは、私を見下しているのか、それとも…
「言わないと…さっきよりも顔、近づけるよ」