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はな*つむ

第2章 闇烏

 長屋を出ようと動いた立海は氷雨の横で立ち止まる。

「氷雨殿、都の警護はお任せ致します」

 穏やかな声で告げ、立海と砕は出ていった。


 氷雨は床にある不自然な濁った水溜まりが何であるかを理解し、震えが止まらない。

「氷雨様、行きましょう……掃除屋にこの長屋を清めて貰うよう手配しましょう」

 紅蓮は氷雨の肩に手を置く。

「そうですね」

 恐怖を押し殺しながら答えた氷雨の声は、確実に震えていた。











 ーーその夜。

 闇烏の討伐が成功したとの報せが届いた。
 闇烏に捕えられていた三人の女が救出され、立海も無事に戻ったらしい。

 報せを聞いた氷雨は安堵する。

 ひとつ、妖怪の危機が去ったと感じれたからだ。




 しかし、翌日にはその安堵もまやかしであったと知らされる。

 討伐した闇烏以外に、三体の闇烏がいる事が判明したのだ。

 式神と呼ばれる、使いを飛ばす術を持って届いた指令には、迅速に残りの闇烏を討伐するように書かれていた。

 作戦を遂行する退魔師の中に、氷雨の名が記されている。

「どうして、氷雨様が選ばれるのですか? まだ氷雨様は未熟にございます」

 険しい表情で紅蓮は問い掛けた。
 指令を出す立場にあり、退魔師の中で最高の位に立つその人物に。

 彼は眉間に刻まれた深いシワを更に深くする。

「氷雨は我が娘……我が一族の退魔師だ、闇烏程度を倒せぬなればその程度だろう」

 冷たく向けられた言葉に、紅蓮は歯を食い縛った。

 最高位の退魔師にして、氷雨の父……鳳来(ほうらい)。
力は氷桜に劣るが、知識も功績も勝り並ぶ者はこの都にいない。

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