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はな*つむ

第2章 闇烏

「これは、灯火の術?」

 驚いた声を氷雨が溢す。

「何を驚いてんだ? お前も使えるだろう」

 しらけ顔で神威が言う。

「使えますが、術符(じゅつふ)が無いと使えませんよ」

 少しだけムッとした様子でそう言った氷雨を見て、神威は「あー」と言いながら頭に手を置いた。

「そうか、知らなかったよな、オレの家はその術符を作る家だから、術の真理、陰言(いんごん)を知ってるんだ、だから符に頼らなくても使える」

 氷雨は更に驚く。

 退魔師が使う《術》の多くは術符に頼った物だ。
なぜなら術を使うのに必要な真理……陰言は普通ならば人間に理解出来ない物で、術符を作る家の人々だけが特別に陰言を知る知識を備えていると聞いている。

 術符を作れる一族は退魔師にとっての命綱……。
神威がまさか、その一族であるなど、全く予想すら出来ない上に聞いたって信じられない。

「……それは嘘ですか」

 つい、氷雨の口から疑いの言葉が出た。

「失礼極まりねーな、お嬢様は」

 神威が苛ついた口調で返す。
 そして氷雨の腕を掴んで彼女を引き寄せた。

「なんなら、陰言をカンじてみるか?」

「へ?」

 神威の言葉と行動が氷桜に抱かれた夜を思い出させる。
 氷雨の体が強張った。

 その感覚に気付きはしたが、神威は手を離しはしない。
 逆に体を抱き寄せ、片手でしっかりと氷雨の腰を固定する。

 向かい合い、密着する互いの体。

 衣越しに触れる、神威の下半身の感覚に氷雨の体がぞっとする。

 神威は氷雨の小さな手を掴み、細い指を口に含んだ。

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