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はな*つむ

第2章 闇烏

 解放された口から熱のこもった吐息が溢れる。
 氷雨の身体には火照りと心地好い気だるさが残っていた。

「もっと楽しみたいが、今は闇烏の方が先だ……行くぞ」

 “楽しみたい”

 その言葉に氷雨の心臓が高鳴る。

 その強い鼓動には不安と少しの期待が混じっていた。

 結局、兄に抱かれた時と同様……痛みと快楽が混じり合った物になるのかと想像すると、それは不安で。

 しかし、今回の様な心地好い快楽を与えてくれるかも知れないと、頭の片隅で期待もしてしまう。

(わたし、なんてイヤらしい事を期待しているのかしら)

 自身の中に芽生えた、快楽への期待を押し退けて氷雨は下を向く。

 神威は氷雨から手をほどき、その手を彼女の手に重ねて握った。
その瞬間、氷雨は懐かしい感覚を憶えて驚く。

(前にも、こんな風に誰かと手を繋いで歩いた事がある?)

 優しく包んだ氷雨の手を引き、神威が歩き出す。

 まだ身体に残る余韻にふらつきながらも、神威に引かれ歩く氷雨。
 懐かしい感覚は鮮明さを増して、記憶の断片が目覚めた。


 夕焼けの中、自身の手を引く小さな少年……。
 泣いている氷雨の頭を優しく撫でて、手を引いてくれていた。


 記憶は妙に曖昧で、色合いはよく分からない。
しかし、綺麗な夕焼け色だけはしっかりと憶えている。


 手を引かれながら思い出した氷雨はもうひとつ、思い出す。

(私……あの少年と何か大切な約束をした気がする)

 それは思い出せたが、肝心の部分が思い出せない。
 果たしてどんな約束をしていたのだろうか……。

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