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はな*つむ

第3章 ハナ

 氷桜を呼び止め近付いて来たのは一人の女性。
 長い茶色の髪をしている。

 女性の名は松乃(まつの)。
氷桜と同じ退魔師だ。


 松乃は笑いながら氷桜の前に立つ。

「お偉い方々のために、女の妖怪を仕込んでいたの?」

 挑発的な笑みを浮かべながら彼女は氷桜の頬に触れた。

「妖怪女にのめり込む奴らは人間よりイイって言うけど……本当なのかしら?」

 首を軽く傾げ、問い掛ける。

「……オレは存じません、妖怪の感触なら千草(ちぐさ)殿の方が詳しいでしょう」

「はん、あの畜生には聞きたく無いわ」

 千草とゆう名を聞いて松乃は不機嫌な声になった。

 千草は退魔師の一人だ。
優秀だが問題の多い人物で仲間内からは嫌われている。

「氷桜様は妖怪を抱いた事は無いのかしら?」

 ころりと甘えた声に変わる松乃。
氷桜をじっと見詰める。

「有りません」

 氷桜は冷静に彼女を見ながら答えた。

「あら、そう」

 くすくすと笑い、氷桜の首に手を掛ける。

「……松乃殿、貴女には夫がおられるでしょう」

「愛なんぞ無い夫婦よ、それに……そんなつれない事を今更言わないで頂戴」

 松乃はそう囁き、氷桜の口に唇を重ねた。
 掛けた手で氷桜に抱きつく。

 氷桜は目を閉じて彼女を抱き締める。


 唇を重ね、抱き合う中で氷桜は思い出していた……。
儀式の夜、抱いた氷雨の感触を……。

 あの時、氷桜は気付いてしまった。
自分が氷雨に対してどんな感情を抱いているのかを……。

 血の繋がった妹だとゆうのに、氷雨を女として見てしまう。

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