その手で触れて確かめて
第5章 小さな恋の物語(O × O)
「ふーん、アイツ、大野…っていうのか?」
「らしいな?」
雅紀の席が教壇に程近い一番前、ということもあって、
教室のどこに、なんという名前のヤツが座っているかが人目で分かるように、席順表が置いてあった。
「大野、って…あの大企業の大野のボン、ってことかな?」
「さあ…?」
雅紀は努めて平静を装ってはいるが、真っ赤な顔をして俯いてしまった。
「ちょっと俺、行ってくるわ。」
「行く、って?あっ、ちょっ!」
雅紀から奪い取った眼鏡を放りだし、
窓際でしれっと分厚い本を広げる麗人に近づく。
後、2、3歩、ってところでそいつは視線をこちらに向け、
吸い込まれそうな程に黒い瞳で、じっ、と見つめてきて…
「誰?」
そして、困ったように笑う。
「何読んでんのかな?と思って?」
「ああ。これ?」
白い歯を見せ笑うと、
細く長い指先に似つかわしくない分厚い本をひっくり返してみせた。
「六法全書。」
「て、ことは、ゆくゆくは弁護士先生?」
「って、言いたいけど…」
麗人は、
寂しそうに笑いながら、目を伏せた。
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