その手で触れて確かめて
第5章 小さな恋の物語(O × O)
「えっ!?オレ?マジかよ〜?」
なーんて、呆れ返っている雅紀の前ではそう言ってみたものの、
ホントは、まさか、俺が選ばれるなんて夢にも思ってなくて、
近所の商店街のくじ引きでティッシュしか当たったことのないこの俺が、と、
この時ばかりは一生分の運を使い果たしたとしても、
それだけの価値がある、と信じて疑っていなかった。
「もしもーし、おーのくぅーん!?」
「……」
帰り道。
無言でスタスタと前を歩いてゆく大野智のご機嫌をとろうと、
俺は必死だった。
ある程度予想はしていたものの、
口を聞かないどころか、
振り向きもしてくれない。
それでも俺は、大野の後をついていった。
すると、突然、大野の足が止まり、
くるり、と顔をこちらに向けた。
「あのさ…」
眉をしかめて、ものすごーく迷惑そうな顔で、
「家、逆方向じゃないの?」
って、やっぱり迷惑そうに言った。
「いや…ま、そうだけど…その…」
「今日は帰ってくんない?」
「え…?」
「一人にしてほしいんだけど…」
「ごめん…」
悲しそうに目を伏せ、ぽつり言う。
こんな時でも俺は、
憂いを帯びた綺麗な横顔に見惚れていた。
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