その手で触れて確かめて
第12章 甘く、透明なオレンジ( M × O )
智side
ホントはもう、来たくなかったんだけど…
翔くんの同僚で、
唯一契約してくれた村上さんが、契約内容で聞きたいことがあるからと、
その説明をするため、彼らのオフィスまでやってきたまではいいが、入りづらくて、
入り口の前で立ち尽くしていると、背後から肩を叩かれる。
翔「どうしたの?入らないの?」
「し、翔…くん。」
翔くんは、ニコッと笑いかけると、早く早く、と手招きした。
僕は、躊躇いながらも、
オフィスに足を踏み入れた。
「大野さん、わざわざ呼びつけたりしてすんませんでした。」
「いえ。もうすぐお子さんが生まれるんだから、やっぱり保険の内容をちゃんと分かってた方がいいですもんね?」
「あっ!大野さん、良かったら今からお昼一緒にどうです?」
「えっ?」
鞄を抱え立ち上がりかけたとき、思いがけず食事に誘われる。
「奢りますよって。」
笑った彼の口元から、トレードマークの八重歯が覗く。
「そや、大野さん、櫻井くんと幼なじみやろ?アイツも誘って…」
「あ……」
村上さんは、自分の席で真剣な顔つきでパソコンに向かう翔くんを呼びつけた。
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