その手で触れて確かめて
第12章 甘く、透明なオレンジ( M × O )
潤side
智「松本…くん?」
大野さんは、俺の顔を見るや、
人目も憚らず、横断歩道の真ん中で、俺のシャツにしがみつき声を殺して泣いた。
「落ち着いた?」
ジャズの音楽が流れる雰囲気のある小さな喫茶店。
ゆらゆらと湯気が立ち上るコーヒーカップを挟んで俺は大野さんと向かい合っていた。
智「翔くん、もうすぐ結婚するんだって。」
「え…?」
智「中学の時から付き合ってた子と。」
「じゃあ…」
智「僕なんか初めっから眼中になかったんだ。そりゃ、そうだよね?男同士なんだから…さ?」
大野さんはカップの持ち手を指先で摘まみ、もう片方の手を添えてコーヒーを一口飲んだ。
智「翔くん、ってほんと勝手だよね?自分が好きな女の子と付き合ってて幸せいっぱいだったから、って、僕のことを好きだ、って言ってきた子を片っ端から紹介してたなんて…」
カップに目を落としたまま淡々と話し続けた。
智「松本くん。」
「な、何?」
智「もう会うの止めない?」
その言葉に、俺は思わず音を立ててカップをソーサーに置いてしまった。
智「このままだと松本くんを傷つけちゃうから。」
だから…?
智「だからもう終わりにしよ?」
カップを置いて立ち上がろうとして、
テーブルに置かれた手を捕まえようと伸ばした手は、
虚しく空を掴んだ。
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