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その手で触れて確かめて

第2章 劣情と熱情と純情と (A × M )



ちら、と振り返るヒロシと目が合う。



その目が、「早く逃げろ」と訴えかける。



「おい、ヒロシ、何やってんだよ!?早くそいつをこっちに寄越せ。」



「あ、いや、だからこいつは…」



ヒロシは俺を奴らのイヤらしい目線から庇うように少しずつ移動し、



『非常口』と照らされた場所まで来ると、思い切り俺の背中を押した。



重い扉を開け、無我夢中で走った。



しばらく走ると、見慣れた景色が見えてきて、



立ち止まって息を整えた。


…アイツ、どうなったかな…?



気になったけど、クラブ戻って確かめる勇気もなくて、



何とか遠目から、クラブに出入りする連中がよく見える場所まで行き、ヒロシが出て来るのを待った。



数時間後、俺のことをイヤらしい目付きで舐め回すように見ていた男と、その仲間が出ていくのが見えたが、



その中にヒロシの姿は無かった。



イヤな予感がして、



裏口に回り、非常階段をかけ上がり、非常口、と書かれた重い扉を押し開く。



辺りは先程よりも薄暗くて、


よほど用心して歩かないとそこかしこにある無意味な段差に足を取られそうだった。



しばらく歩くと、低い呻き声が聞こえて、



目の前の黒い塊が蠢いた。



暗がりに目が慣れるのを待って、俺はその塊に声をかけた。



「ヒ、ヒロシ…なの?」


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