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その手で触れて確かめて

第2章 劣情と熱情と純情と (A × M )



渋るヒロシに肩を貸しながら何とかクラブの外に連れ出す。



やっとの思いでタクシーを捕まえ、


ヒロシを車内に押し込みながら、自分もその隣に座った。



「すいません、ここから近い救急病院まで…」


「…いい。大したことない。」



少し大きな声を出すだけでヒロシは鳩尾を押さえ体を屈めた。



「…それに、警察沙汰になったら、お前が困るだろ?」



と、前屈みのまま行き先を告げた。






ヒロシの部屋は、鉄筋の古いアパートの角部屋だった。



当時の俺は、今ほどガタイもそれほどじゃなくて、


「虫みたい」って言われるぐらい、細くて小さかった。



そんな体で、大人の男に肩を貸しながら階段を上がるのはとてつもない重労働だった。



部屋の前につくや、肩で息をする俺を見て、



ヒロシは、それ見たことかと言わんばかりの顔で、鍵穴をガチャガチャ言わせていた。



「上がっていけ。水くらいは飲ませてやる。」



やがて、へたり込んでしまった俺の腕を掴み、



部屋の中に引き入れた。



壁づたいに奥へ歩いて行って、



暗がりの中から、水の入ったコップを手に再び現れた。





「少し温いけど我慢しろ。」



素早く受けとると、


ごくごく喉をならしながら飲み干した。



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