その手で触れて確かめて
第2章 劣情と熱情と純情と (A × M )
「少し休んだら帰れ。」
そう俺に言うとヨロヨロ歩きながら、奥へと消えて行く。
そのあとを、やっぱりふらつきながら追いかける、俺。
ヒロシは部屋の灯りも点けずに、
グシャグシャのシーツの上に転がっていた。
「救急箱は?」
「救急箱?ねえよ、そんなもん。」
手探りで部屋の灯りのスイッチを探し、
灯りを点け、足の踏み場もない部屋の中を物色し始めた。
「…ねえ、ってんだろ?そんな洒落たもん。」
聞く耳も持たずに棚上を覗き込んだり、脱ぎ散らかした服を捲ったりしては、
それらしきものがないか探し回った。
「おい、そんなことする元気が出たんならさっさと帰れよ、ボウズ?」
「よくこんなとこで生活してんね?そんなことより、俺には潤、って名前があんだけど?ヒロシさん?」
やっとの思いで、ヨレヨレのシャツの下から絆創膏を探しあて、剥離紙を剥がしながら、寝転がるヒロシの隣に座った。
「はっ。女みてえな名前だな?」
擦りむいて血の滲むヒロシの額に絆創膏を貼り付け、
仕上げとばかりにぺしり、と叩いてやると、
ヒロシは痛い、と喚きながら、涙目で俺を睨み付けた。
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