その手で触れて確かめて
第19章 俺のアニキ(M × S )
顔を合わせても憎まれ口は叩くが口を聞かない、目も合わさない。
そんな状態が何年も続いて、その間、智は俺と翔の仲を取り持とうと何度も間に入った。
翔は努力してみる、と、言っていたらしいが俺は智の話に素直に耳を傾けることなく無視し続けた。
中学に入ってからは悪い仲間とつるむようになった俺はソイツらと夜な夜なクラブに入り浸っていた。
そして、そこの常連だった見知らぬ大学生にトイレの個室に連れ込まれてあと少しのところでヤられそうになって、ショックで飯も食わずに部屋に引きこもっていた時だった。
夜中、部屋の外で誰かの足音がして、その足音が聞こえなくなったことを確認してからそっとドアを開けてみると、見るからに歪でデカいおにぎりが置かれていて、足音が消えた場所から察するに翔の仕業だと確信した。
持った途端ボロボロと崩れ落ちてくるおにぎりではあったけど、空腹に耐えきれず食ってみると案外旨くて、
初めて会った日に「愛人の子」と罵ってしまったことを少しだけ後悔した。
そんな後悔を抱えたまま数年の後、俺がやらかした大きな過ちのせいで、翔はとうとう家を出ていって行ってしまった。
「アイツなんかいなくなればいい。」
誰の目を憚ることなくそう漏らしていた言葉通り、
翔は忽然と姿を消してしまったんだ。
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