その手で触れて確かめて
第19章 俺のアニキ(M × S )
あのあと本格的に仕事の話を始めた二人の邪魔にならないように、こっそり自室へと引き下がる。
それはそうと、智、どうしてるかな?
翔にあんな質問をしておきながら、自分はどうなんだろう?って思ってしまった。
翔と違って俺と智は血の繋がりがない。
でも、生まれた時から俺の側には智がいた。
そう、母さんが俺を生んですぐに逝ってしまった時からずっと。
だから智は兄としてだけではなく、俺にとっては特別な存在。
今もそれは変わってないし、これからもずっと変わらない。
他の誰かとなんて比べようがない。
それが、俺にとっての智という存在だ。
その夜、俺は久しぶりに夢を見た。
父さんが翔を初めて家に連れてきた日、三人でサッカーをしていた時のこと。
やはりその夢の中でも中々ボールは奪えなくて、それでも負けじと翔に食らい付いていった。
そして、漸く一瞬の隙を突いてボールを奪い取り、ゴールネットを揺らすことが出来た。
やった…!
夢にまで見た瞬間に、俺は空に向けて人差し指を突き立てた。
すると表情も変えずにその様子を肩で息をしながら見ていた翔が走りよってきて、右手を差し出しながら笑った。
翔「スゴいじゃん?」
「…うん。」
翔「今日は負けたけど、今度は絶対俺が勝つから。」
と、呆然と立ち尽くしたままの俺を残し翔は走り去っていった。
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