その手で触れて確かめて
第4章 戸惑う唇(O × S)
「智、翔の怪我の具合はどうなんだ?大分ひどいのか?」
夕食の支度が整った頃合いを見計らって、翔の部屋へと向かう途中、親父が俺に声をかけてきた。
「ううん。大したことないよ?今、呼んでこようと思って…」
何事もなかったかのように席につく潤と目が合う。
よく平然としてられるな…
苦々しい思いを抱えたまま、翔の部屋へと向かった。
「翔?智だけど、出てこれる?」
返事がないことに不安を感じた俺は「入るよ?」と、声をかけながらそっと部屋のドアを開けた。
すると、ベッドの上でシーツにくるまった丸い塊が遠慮がちにモゾモゾと動いた。
…やっぱり、熱でもあるのかな?
「気分…悪いのか?」
俺が声をかけると、ベッドの中の塊が動いた。
…食欲がないのかも…
あ…!そうだ!!あれだったら…。
あれだったら、もしかしたら…
俺は、キッチンに駆け込むと、
ガキの頃、亡くなったばあさんががよく作ってくれたものを手早く仕込み、
翔の部屋へと舞い戻った。
ドアをノックするも返事はなかったが、気にせず入っていく。
ドアを閉めきると、
たちまち部屋一杯に甘い香りがたちこめた。
作品トップ
目次
作者トップ
レビューを見る
ファンになる
本棚へ入れる
拍手する
友達に教える